心―アナタノモノガタリ―
玄関の方で、扉があく微かな音が、そばだてていた耳に飛び込んできた。
待ち望んでいた音。
でも、私は動かない、動けない。
これは掟だから、この世に生きる術だから。
音がしても、動いてはいけない。
声がしても、反応してはいけない。
昨日笑って別れた友人が、今日は武器を向けて狙ってくる。
私達は、そういう敵と戦っている。
私は胸を突き抜けそうな鼓動に耳を澄ます。
近付いてくる足音は多い。
これがもし敵なら、皆の命は私の手の中にある
じんわり汗で濡れた掌で、ギュッと冷たく硬い銃を握りしめる。
扉に手がかけられた。
私は思わずグッと目を閉じた。
「ただいま」
声が響いた途端、部屋が明るく照らされる。
閉じた瞼の内側から、光を感じた。
そっと目を開くと、眩しい光に目が眩む。
「おかえり、皆!」
私は微笑んだ。
帰ってきた、ただそれだけで、はち切れそうだった鼓動が収まる。
「またこんな遅くまで起きてたのかい?
こんなに暗い中で。
ったく、寝てなさいって言ってるのに」
フウとため息を吐きながら、呆れたように呟かれる。
その言葉にぷっと頬を膨らませると、今度は大きな手に頭をクシャクシャされた。
「心配なんだよな?
今日は怪我人も居ないし、大丈夫だよ。
さ、明日も早いから、もう寝ようぜ」
すると、思い出したかのように皆あくびをし始める。
なんだか、その光景があまりにも平和に見えて、つい笑ってしまう。
今度は頭を小突かれて、怒られるけど、やっぱり笑っちゃう。
「お休み、また明日」
この言葉が聞けるなら、毎日だって暗闇の中で待つ。
毎日だって、誰にだって、祈る。
訪れた安らぎに身を任せて、私は来る朝を思って目を閉じた。