家元の花嫁【加筆修正中】
庭を探しても、姿はない。
残るは業者用の通用口のみ。
あそこしかない。
今日は業者の搬入が無いから、人通りはほとんど無い。
俺は必死に走った。
くそっ、着物じゃ無かったらもっと早く走れるのに…。
建物の裏手に回り、垣根を通り過ぎようとした時―――。
木の陰で、女の言い争う声がした。
「どういうつもりなの!?あなたみたいな一般人が、相手出来るような人じゃないのよ?」
「そんなこと、言われなくても分かってます!」
「本当に彼と結婚するつもりなの?冗談はやめてよ!」
「そんなこと、あなたに関係ないじゃないですか?」
やっぱり…ゆのの声だ。
そして…もう一人は…。
俺は2人の元に走り寄った。
やっぱり…椿だった。
しかも、椿はゆのを叩こうと手を振り上げている。
俺はすかさず、手を掴んでゆのを背後に隠した。