家元の花嫁【加筆修正中】


「承知した。だが、その前にわしが一服点てる。ゆのさんとやら、わしの茶と隼斗の茶を戴いてはくれぬか?」


「!?はい…。謹んで頂戴致します」


ゆのは驚いているが、とりあえずは茶を点てる許可は貰った。


あとは俺の服加減(お茶の味)が良ければ…。


「では、わしから点てる。隼斗はその後だ。良いな?」


「はい」


ご隠居は優雅に茶を点て始めた。


財界の大物や著名人が足しげくここへ通うと言う。


小さい頃から稽古をつけて貰うのによく点てて貰ったが…


お茶に旨みと深みがあり、口に広がる服加減は逸品。


マネしようにも到底マネ出来るものではない。



ゆのの前に茶碗が置かれた。


ゆのは挨拶をして茶碗を手にした。


横目で見たい気もするが、ここは我慢して目を閉じる。


ゆのが礼を口にした。


目を瞑っているからゆのの声と衣擦れの音しか聞こえない。


次は俺の番だ!!


俺はそっと目を開けると、ご隠居が席を立った。


俺はご隠居と入れ替わる形で炉の前に正座した。


いつも見慣れた景色が今日は違って見える。


初めて人前でお茶を点てた時と同じような…


そんな感じがした。


< 313 / 337 >

この作品をシェア

pagetop