家元の花嫁【加筆修正中】
「承知した。だが、その前にわしが一服点てる。ゆのさんとやら、わしの茶と隼斗の茶を戴いてはくれぬか?」
「!?はい…。謹んで頂戴致します」
ゆのは驚いているが、とりあえずは茶を点てる許可は貰った。
あとは俺の服加減(お茶の味)が良ければ…。
「では、わしから点てる。隼斗はその後だ。良いな?」
「はい」
ご隠居は優雅に茶を点て始めた。
財界の大物や著名人が足しげくここへ通うと言う。
小さい頃から稽古をつけて貰うのによく点てて貰ったが…
お茶に旨みと深みがあり、口に広がる服加減は逸品。
マネしようにも到底マネ出来るものではない。
ゆのの前に茶碗が置かれた。
ゆのは挨拶をして茶碗を手にした。
横目で見たい気もするが、ここは我慢して目を閉じる。
ゆのが礼を口にした。
目を瞑っているからゆのの声と衣擦れの音しか聞こえない。
次は俺の番だ!!
俺はそっと目を開けると、ご隠居が席を立った。
俺はご隠居と入れ替わる形で炉の前に正座した。
いつも見慣れた景色が今日は違って見える。
初めて人前でお茶を点てた時と同じような…
そんな感じがした。