君が見上げたあの空は
歩美は自宅の鍵を開けた。

靴を脱ぎ、自室の扉に手をかける。



「歩美。遅かったな」



野太い、鼻に付く声が届く。



「それに、ただいまくらい、言いなさい」

「…ただいま」



声の主はのっそりと歩いてくる。

髭を蓄えた、大柄の男性。

歩美の父、雄歩だ。



「こんな時間まで、なにをしていた?」



歩美は雄歩の方を見ずに応える。



「…委員会の仕事」

「門限を過ぎている」



歩美は、心の中で、舌打ちした。



「…仕事は仕事だから」

「お父さんの言い付けが、守れないのか」



歩美は思う。

るっせぇ。

熊五郎が。



「…着替えたいの。もう、いいでしょ」



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