君が見上げたあの空は
愛歌の家。



歩美は借り受けた合鍵を使い、中に入った。

扉に鍵を掛け、リビングに荷物と腰を降ろす。

愛歌は居なかった。

歩美は小さく、溜め息をつき、鞄から、千鳥美羽の写真詩集を取り出し、開く。





歩美は、旅立てなかった。

なんど違うページを開いても、写真に添えられた詩を読んでも、歩美は、リビングから、出られなかった。





写真詩集を閉じ、唇を噛む。

拳を握り、頬を打つ。

じわりと拡がる痛み。





歩美は、なんども、なんども、頬を打った。




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