君が見上げたあの空は
愛歌はプレートに、肉を広げてゆく。



「ピーマンは、よく噛めば。それか、なんらかの調理によってか、ソースによって、苦いだけではなくなるわ」

「…あの苦味成分は、毒です」

「人間は消化・吸収の過程で、それを無害化出来る。死に至る様なものではないわ」

「…それでも、苦いのは、嫌です…」



愛歌は人差し指を唇に当てた。



「歩美さんにとって、苦いのは、嫌なことなのね?」



歩美は声も出さず、頷いた。



「風邪薬の苦さ。ストリキニーネの苦さ」



愛歌は、肉を返した。



「これ、もう、食べられるわね」



< 82 / 132 >

この作品をシェア

pagetop