岬の夕陽
史郎は毎年8月27日になると、決まってこの岬を訪ねていた。

初めて訪れたのが22才の夏、大学生最後の夏休みだった。

以来この旅行は毎年何があろうと欠かしていなかった。

史郎も少しずつ生活は変化し、この町も少しずつ変化してしまった。

大学を出た後、彼は様々な職業を転々としながら、作家の道を歩み始めた。

それなりの地位も得て、生活も安定した。

そして年をとった。

ただし結婚だけはしなかった。

何度か話はあったが、結局まとまらなかった。

というより史郎は、どうしても決断できなかった。

その理由は、45年前に凍りついたままの時間が、この岬にあるからだった。
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