ホームレスな御曹司…!?
ま、オレとしては親父なんかの言う通りにする気などサラサラない。


知香と結婚しない、っつー意味じゃなく。


オレはオレ、知香は知香の距離と時間を大切にしたいから。


だからプロポーズは、まだ。


とりあえず今日は顔を見せるのが目的の食事会。


「母さん、気合い入れてメシ作ってるぞ?」


「ハイ…」


知香は泣きそうな声を押し殺して、ただ頷いた。


…って。


その表情。


緊張の頂点と目尻に涙をためた困り顔。


オレ、こらえらんないんだけど?


信号の赤で車を停車、オレは素早く知香の唇にキスを落とした。


「近文…さん…?」


知香はいつだってキスの後、そのデカイ目をボーッとオレに向ける。


キスに酔いしれたような。


キスを信じられないような。


そんな顔。
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