ホームレスな御曹司…!?
「覗かないでくださいねッ」


「ハイ、ハイ」


鼻息荒くジーンズに履き替え、タートルネックにブラックウォッチのチュニックを合わせてコートを羽織った。


マフラーは…


「あたしので良ければ…どぞ」


「ありがたく」


なんとなく渡してしまった。


うん、なんとなく。


地味なホームレス仕様がワインレッドのマフラー一本だけで、チカブミさんを引き立たせる。


マフラーから覗く無精ヒゲが品良く見えるのは…気のせいだよ、ね?


「ちょっと歩くぞ」


半歩前を歩くチカブミさんは、通りすがりの二晩だけ一緒に過ごしたホームレスさん…。


そう、ただの通りすがり。


だから、今日でおしまい…。


いつもに増して寒さを感じるのは、失業病のせいで。


…寂しさ。


なんかじゃ、ない。
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