ホームレスな御曹司…!?
チカブミさんはあたしのふくれっ面に満足そうな笑みを浮かべると、寒そうにベンチに佇むオジサンや、空き缶を集めてるオジサンに挨拶を交わし、公園の奥へと進んでく。


「公園には水もトイレも完備、近くにコンビニ、まれに酔い潰れた女を拾う事もあり、ホームレスくんも悪くない」


「そうですかっ」


進んだ公園の一角には、ダンボールやビニールシートで作られた小さな家(?)があり、雑然かつ寒々と見えるその風景は、都会の影のようにも見えた。


「お、トキちゃん。ここんトコ見ないと思ったら、女連れとはなぁ」


「ヤスさん、この子はちょっとした拾いモノ。ホームレスの社会見学だよ」


「ほぅ。いい拾いモンしたなー。なかなかのかわいこチャンだ」


ジロジロと無遠慮に、なめ回すようにあたしを見る“ヤスさん”とやら。


ここに踏み込むんじゃなかった…と。


少し気持ちが尻込みする。


やっぱりホームレスさんにはそれなりの世界があって。


なんていうのかな…。


世の中からはみ出してしまった独特の匂いがある。


孤独とか哀愁とか、あらゆる物を捨て去ってしまった身軽さから滲み出る匂い。


この匂いは。


“壁”


チカブミさんは一本の木に寄りかかるようにして建てられたダンボール小屋のビニールシートを開けて中に入り、あたしを手招きした。
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