ホームレスな御曹司…!?
「おじゃま…します…」


小さく簡素なチカブミさんの“家”。


汚れた数枚の衣類とカセットコンロ、空っぽのペットボトル。


「どうだ?何もないって怖いだろ?」


あたしの心を見透かしたようにチカブミさんは小さく笑った。


当てられた気持ちを隠せず、居ずまり悪く座るデコボコした床にあたしは目を落とした。


「ここには転落した人、何もかも見えなくなってしまった人、世の中から不要とされた人、色んな人が心の寒さに耐えて今日1日という日をなんとかやり過ごしている。ないかもしれない明日に希望を見ながらな」


「ハイ…」


「ここにはもう来るな」


「…え?」


「知香が見るべき世界じゃない」


「でも…。でも、じゃあ、チカブミさんが見られてあたしが見ちゃいけない世界って、理由って何ですか?」


「感じただろ?」


「何を…ですか…?」


「人生観の違い、壁。ホームレスとまっとうに生きる人間とじゃ、存在すべき意味も、呼吸する空気も違う」


「そんな事…」


…ナイ、って。


言えないのは。


今、チカブミさんに言われた“壁”その一言があたしの中に確かにあるからで。


わかってるくせに理解したくないあたしの中の矛盾は。


チカブミさん。


この人がどうしてもホームレスらしい生き方にふさわしく見えないから。
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