小さな幸せ
「おいでよ。」

片付けが終わった私を呼ぶ。

惣さんが座ったソファ-の隣にちょこんと座る。


手なずけられた子犬みたいによしよしと

髪を撫でられる。


「さっきの話途中だったけど?」


「昔の話?聞きたいですか?」


「うん、でも手短にね?

 したいことあるから。」


「したいことって?」


ふふっと笑う惣さん。


私は顔が赤くなった。


「ええっと、昔の事って言うのは、最初の職場の話。

 私は、このスコッチエッグを社員食堂に出したかったの。


 メニュ-渡したら、一瞬空気が変わってね。


 出てきた食事は目玉焼きが乗ったハンバ-グだったの。」


「なに?どういうこと?」


「栄養士のかんがえたメニュ-は

 調理場の事を考えてないって言われたの。

 大量に作るには工程が多すぎる事余り考えてなかったんだ。

 それからかなあ、調理場の人達にいやがらせされるようになったの。」


「キツかったな。」


「若かったから、上手く対処できなかったから。

 それを乗り越えたらいい関係で来てたかもな。

 なんて今は思うの。」


「何か悩んでる?」


ドキッとしたけど、

「ううん、ただ思い出しちゃっただけ。」


私はごまかすように惣さんの肩によりかかる。


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