小さな幸せ
「先輩が事故に会ってたなんてあたし、全然知らなかった。」

「交通事故でね、殆ど外傷はなかったんだ、

 ただ、視力を失ってしまってね。」

ははは

と笑った。


「兄さんに会ったの?」


「はい、ここに連れて来ていただいて。」


「びっくりしたでしょ、双子だったなんて。

 俺、子どものない伯父さんの所に養子で引き取られてて、

 両親も兄も恨んでたんだ。

 だから、君には家族の話はしてなかったよね。」


「和ちゃんこっち来て。」


あたしは黙って先輩の傍に行って先輩の宙を泳ぐ手を握って、


「先輩。」


と声を掛けた。


グイッと引っ張られて抱きしめられた時、

タイムスリップをした感覚に落ちて行った。



「ああ、本物なんだね。会いたかった。」


ギュッ更に強く抱きしめられて、


「会ってこんな風に抱きしめたかったんだよ。」


と呟いた。


 「和ちゃん迎えに行かなくてごめん。


 15年もたったんだな。


  結婚してるの?」


「いいえ。結婚はしていません。」


こんな時に言うべきか迷ったけど、

やっぱりちゃんと、本当の事が言いたい。


「でも今、大切にしたい人がいるの。

 先輩を待てなくてごめんなさい。」






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