小さな幸せ
 母が、父を裏切った。それは俺の中で許せない事実で、

 母が結婚を悩んでいる時に、俺は東京の大学に逃げた。


 そして、一切の連絡を絶った。


 ある日小包が届いて、父が残してくれた俺名義の通帳と、

 母が積み立ててくれていた学資保険。そして毬乃写真。


 そして、

『入籍しました』の、母の手紙。


 俺のこだわりは、

 母の家族を苦しめると判った俺は、

 初めて電話をしたんだ。

 『 結婚おめでとう、妹を生んでくれてありがとう。』って。


 その晩俺は一晩中泣いて、そして、全てを受け容れたんだ。


 
 笑っちゃうだろ、もう二十歳直前の大学生がだよ?」



ずっと黙って聞いていた和実が


そうっと俺の頭を抱いた。



「凄いね、頑張ったね。

 お母さんも毬乃ちゃんもお義父さんも、

 惣の一言で、みんな幸せになったんだね。


 あなたは、

 自分には家族がいないみたいに思っているかもしれないけど、

 その瞬間から、惣は家族になってたんだよ。


 気がつかなかった?」



心の中にあった蟠りが解かれて行く


和実の言葉がストンと胸に落ちて、




ああ、神様もしあなたが存在するなら

心から感謝します。

この子に会わせてくれたことを。


ぶわっと感情が溢れた。

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