小さな幸せ
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「目が覚めた時には、温かい家の中にいて、

 父さんがココアを作って飲ませてくれたのよ。」



円は目を細めて遺影を見つめていた。


「いつだって置いてけぼりは、私なんだから、意地悪ね。

 追いかけて、やっと捕まえたのに、

 こうもあっさりおいて逝っちゃうなんてね、、」

そういいながらも、

円はもう泣かなかった。

「、、ごめんね惣、

母さんもう泣かないから。

惣がいるものね。」


円は惣を抱きしめた。

惣の身体に円の温もりが被さって、

甘い匂いと酒の香りが惣を包む。

「酒臭せ、、、」

「うん、ごめん。」

「もう子供じゃないんだから。」

「うん、ちょっとだけ。」

「母さん。」

「なあに?」

「父さんの事愛してた?」

「うん、、、愛してた。」


愛してる、、


二人の傍で誰かが囁いたように聞こえた。









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