小さな幸せ
宇都宮で在来線に乗り換える。


殆ど人の乗っていない車両に着信音が響く。


「あ、俺か、マナ-にするの忘れてた。」


苦々しい思いで回りを見渡したが、


誰ひとり気にする風もなくてホッとした。


「あ、はい元気です、すみません今電車の中、

 後で電話かけなおします。」


そうか、そんな時期だったなあ。


電話の相手は坂上祥治さん


2つ年上で、新任だった俺を何かと気にかけてくれた。


彼の趣味はホタルの育成だ。もとは趣味でも何でもなく、

前任校が県から指定を受けたことで


細々やっていた、

地域のホタルの環境調査を本格的にやるはめになり


その担当になって以来。

授業以外はホタルのために飛び回ることに

なってしまった気の毒な人だ。


だが、

指定ついでに、

学校の一角のビオト-プにホタルの育成をしようという


地域の一大イベントを立ち上げてしまうぐらい

バイタリティのある人でもある。


まあ、俺もそれに巻き込まれて

転勤した今でも、地域の人達とは繋がりがある。






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