赤い狼と黒い兎Ⅱ
「馨もさ、イマイチ何がしたいのか分かんねえよなー」
向日葵がそんな事をボヤいて、亜稀羅の動きが止まった。
……なんだ?
「…それ、ただお前が分かろうとしてないだけなんじゃねぇの?」
「……は?」
何故か喧嘩腰の亜稀羅に向日葵も眉間にシワを寄せる。
亜稀羅のやつ…どうしたんだ?
「馨が自分から動く時は大体仲間の事なんだよ。1ヶ月以上も一緒に居るのにそんな事にも気づけないワケ?」
「は…なんだよそれ」
確かに、前嶽さんにやられた時も仲間が絡んでたな…。
亜稀羅は見下したように向日葵を見やると、いつもとは違う目つきで睨んだ。
その目つきが馨に似ていたのか、向日葵も少し言葉に詰まる。
「馨は今回絶対1人じゃ動かない。なら馨を信じたら?お前の今まで見てきた馨は嘘つきな馨なのかよ?」
「……んなこと言ってねえだろ」
「頼って欲しいって気持ちも分からなくもねぇよ?だけど、俺らが介入して変に馨を困らせたくねぇだろ?」
「………」
今回、亜稀羅が馨に深く追求しないのはそういうことだったんだな…。
やっぱり姉弟だから、ちゃんと見てんだな…。
「(俺も…ちゃんと馨のこと信じてやらねぇと…)」
何でも1人で突っ走る奴だから、心のどこかで疑ってる自分がいた。
前みたいにまた病院送りになったらどうしよう、とか今度は俺が守ってやらねぇと、って思ってた。
けど、気持ちばっか突っ走って馨のことなんて何も考えちゃいなかった。
アイツは、曲がったことが大嫌いな奴だ。それに、そこら辺の女みたいに弱いワケじゃない。信じてれば、絶対教えてくれるよな…?
一度目を伏せ、目を開けたらそこにはきょとんとした馨が立っていて…―――
『あれ?なんか真面目な話でもしてた?』
「か…馨?」
「何でお前………」
みんな、訳が分からず馨を凝視してた。かくいう俺も、目が点だ。
ほんと、いい意味で俺らを驚かせてくれるよ…。
-唯兎 side end-