Love Story's+α
皇子(みこ)様―
そのようにお手をお振りになられては、見られてしまいます。
皇子様
私は今はもう天智天皇(てんちてんのう)様の妻なのですよ。
皇子様…
―――
――
―
「皇子様」
貴方は…来てしまった。
顔を苦痛に歪ませて私を見ている。
その瞳は哀しそうで…淋しそうで…
何故…私達はこうなってしまったのでしょう。
あんなに穏やかに幸せに過ごしていたのに…
中大兄皇子(なかのおおえのみこ)様(天智天皇)にいきなり召し上げられてしまった。
貴方に私の代わりとして二人の娘皇女、太田皇女(おおたのひめみこ)様と鵜野讚良皇女(うののさらさのひめみこ)様を嫁がせて
私達、女には逆らうことも出来ず、ただ云われたままに
「額田…来てしまった」
「…はい」
「十市(とおち)は元気か?」
「はい。あちらで薬草を摘んでいます」
「……」
「皇子様」
「…逢いたかった」
「……」
「逢いたくて逢いたくて」
「皇子様、もうそれ以上は仰いますな。今の私は皇子様の兄君(あにぎみ)天智天皇様の妻なのですから」
「額田…」
「こうしてお目にかかれただけで…充分でございます」
「…額田…」
「皇子様、もうお行き下さいませ。誰かに見られては」
「私は構わぬ」
「皇子様、陛下は恐ろしいお方です。それに今、お二人が揉められてはなりません」
「……」
「皇子様は兄陛下様をお助けせねば…この大和(やまと)の為に…それが一番大切なこと」