Love Story's+α
館に戻り―
宴が始まった。
その宴には天智天皇様始め大海兄皇子様、太田皇女様、鵜野讚良皇女様、そして中臣鎌足(なかとみのかまたり)とその妻になった私の姉上鏡王女(かがみのおおきみ)もいた。
――
―
宴たけなわ
歌比べにと―
「お次は額田様、お願いします」
席を立ち
「あかねさす紫野ゆき標野ゆき野守は見ずや君が袖振る」
皇子様への思いをこの歌に託して…
―――
――
―
「お次は」
「私が」
皇子様…
皇子様が一口酒を飲み席を立ち
「紫草(むらさき)のにほへる妹(いも)を憎くあらば人妻ゆえにわれ恋ひめやも」
……
…
あぁ、皇子様…
私は…額田は…それだけで充分でございます。
周りに人は大勢いるのに、まるで私と皇子様だけの時間が止まったように…
皇子様…愛しております。
例え…この体は天智天皇様のものだとしても…
心は皇子様…
あなた様の元に…
*終*
†††††
万葉集の中の相聞歌として有名なこの二首
額田王女
「あかねさす紫野ゆき標野ゆき野守は見ずや君が袖振る」
(紫草の生えている野を行きながら野守(番人)が見るではありませんか。あなたが袖をお振りになって私に合図をしておいでなのを)
大海人皇子
「紫草(むらさき)のにほへる妹(いも)を憎くあらば人妻ゆえにわれ恋ひめやも」
(紫草の色のように美しく匂いやかなそなたを憎く思う。ならば人妻であるそなたの為に私はどうして恋しく思うことがありましょうぞ)