つめたいハートに火をつけて
【プロローグ】 裏切り


それは彼と付き合い初めて三年目の春だった。

二人ともそろそろ結婚を……と意識していた矢先。

突如、彼に転勤の辞令がくだされた。


遠距離恋愛になってしまったが、それでも初めのうちは二人して会う努力を重ねていた。

だけど、彼が異動して三ヶ月がたつ頃には、会う回数だけでなく、電話もメールもその数が段々と減っていった。

新しい土地に行って、自分の知り合いがいなかった場所で、仕事だけではなくまわりの環境に馴染むのも大変だろう。

そう思って彼に会いたい、声が聞きたいって気持ちを何度も何度も自分に言い聞かせて耐えていた。


しばらくの間はなんとか気持ちを抑えていたけれど、やっぱり寂しくて、寂しくて彼の所へ行こうと決めた週末の事。

半年前には足しげくに通った、彼が住んでいる町へと降り立った。

二人で並んで歩いた、駅から彼が住むマンションへの道を今日は一人で歩いていく。

彼の住むマンションが視界に入ってくると、彼に何も伝えず会いに来た事が、今更ながら大きな不安に変わる。

すぐに彼の部屋へ向かう勇気が出なくて、近所の小さな公園の片隅にあるベンチに腰掛け、このままどうしようか……などグズグズ悩みながら足元を眺めていた。

『彼に会いたい!!』その一心でせっかくここまで来たのに、なかなか最後の一歩を踏み出せないまま、ただ時間だけが過ぎていった。

ふと気が付くと辺りは夕闇に包まれており、彼の部屋に明かりが灯っているのを見て、背中を押されたように部屋に向かって駆け出した。

部屋の前で乱れた息を整える間もなく、彼から預かっていた合鍵を使う。

「ユウ、会いたかった!!」

扉を開けて声をかけた先には、私にはとても信じられない光景が広がっていた。

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