つめたいハートに火をつけて


こんな所を目撃しても、浮気してゴメンって言葉を心のどこかで期待してた。

でも、彼の瞳はとても真剣で望んだ言葉を貰える事は無いって気付いた。

「もう……、私のこと、好きじゃない……?」

それでも確かめたくて、言葉を紡ぐ。

泣くまいとしたけど、後から後から、涙が零れ落ちていく。

「……好きだったよ。でも、アイツの事を愛してるんだ」

もう彼の中では、私の事は過去の事で。

冷たく私の事を突き放そうとする。

ホントは、別れたくないって、駄々をこねて縋り付きたかった。

きっとそうしても、彼は応えてくれなかったろう。

「……分かった。ここで、サヨナラする。」

今は私の事を好きでなくても、私が大好きな人をを困らせたく無くて、物分かりのいい振りをする。

ギュッと握り締めてた右手を彼に突き出す。

「合鍵も、返すね」

「ん」

言葉短く鍵を受け取る彼。

まだ溢れた涙は止まらなかったけど、それでも精一杯微笑んだ。

「今まで、ありがとう。

せっかくのとこ、邪魔してゴメンね」

最後の言葉は、精一杯の虚勢。

彼が何か言い掛けようとしていたが、知らんぷりして玄関を出て、扉を閉めた。

それから、エレベーターも使わず、がむしゃらに走って駅へ向かった。

帰りの電車の中でも、溢れた涙は止まらなくて、近くにいた人は怪訝な顔をしてたと思う。

長い時間をかけて、やっとの思いで自宅へ帰った後は、ベッドに突っ伏してずっと泣き続けた。

空が明るくなってきた頃。

散々泣くだけ泣いて、もう涙も出なくなって窓の外を見上げる。

もう二度と恋なんてしない、そう心に固く誓った。



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