つめたいハートに火をつけて
カウンター席に腰を下ろすと、ドリンクメニューを手渡してくれた。
普通では、なかなか置いてないようなリキュールもあるのか、カクテルの種類が充実してる。
「ここ、カクテルかなり充実してるね~」
カナも同じ事を思っていたようだ。
「種類がいっぱいあると嬉しいね~。あ、私はミモザにする~」
「アヤは、最初の一杯はいつも同じだね」
カナが笑って皮肉を言う。
「だって、お腹すいてるもん」
「アハハ。確かに空腹にキツいアルコールは入れらんないよね。
じゃ、あたしキールロワイヤルにしよ~っと」
二人、ドリンクを決めて、ウェイターを呼ぼうとすると、カウンターの中にいたバーテンさんが、声をかけてくれた。
「ご注文はお決まりですか?」
少し低くて、深みのある声。この声に聞き覚えがある。
でもここで聞く事に少し訝って、顔を上げてバーテンさんの顔を見て驚いた。
「テルくん……?」
「そうですよ。何をそんなに驚いてるんです?」
昔と変わらない、人懐っこい笑顔を向けてくれる。
渡辺 輝史(わたなべ てるふみ)は、元カレであるユウ~佐々木 悠(ささき ゆう)~の大学時代の後輩だ。
ユウがサークル仲間と飲み会があると連れていってくれた場で知り合った。
でも、アイツの事をようやく忘れられそうという時に、彼とあたしの事を知ってる人に会うなんて……。
ズキリと少し胸の奥が痛んだ様な気がした。
でも、元カレが可愛がっていたからって、テルくんにあたるのはなんかちょっと違う気がする。
「うわ~、すごく久しぶりだね~」
だから、笑顔で彼に声をかける。
「アヤ、知り合い?」
私の顔と、テルくんの顔を交互に見ながら尋ねてきた。そうだ、カナはテル君に会ったこと無かったんだったっけ。
「そ、アイツの後輩」
私がアイツと言った所で、テルくんが怪訝な顔をする。
「ユウとね、別れたの」
胸の傷は少し痛むけど、なんでもない顔で言ってのけると、彼は納得いったような表情をする。
「そうでしたか。知らなかったとはいえ、言いにくい事をすみませんでした」
そんな風に謝罪されると、なんか虚しくなる。
「積もる話もあるだろうけど、とりあえずミモザとキールロワイヤルお願いします!!」
漂い始めた湿っぽい空気を吹き飛ばすように、カナがドリンクの注文をしてくれた。