つめたいハートに火をつけて


テルくんは、微笑んで新たにメニューを手渡してくる。

「かしこまりました。ミモザとキールロワイヤルですね。
こちらは、フードメニューです。
本日のオススメは、そちらの壁のボードにあります。
もし見にくければ、口頭でも説明しますが?」

「大丈夫、ありがとう」

そう声をかけると、テル君は一礼して下がっていった。

早速フードメニューを広げてカナと二人で覗き込む。

「うわ~フードの種類もいっぱいあるね、悩むわ~」

「端から端まで頼んでみたいね。カナ、どうする?」

メニューの隅々まで何度も見て、ボードに書かれたメニューを見ても、なかなか決められない。

「お待たせしました」

テルくんは自然に、私の前にミモザを、カナの前にキールロワイヤルを置いてくれた。

「あれ?カナが注文したのに、どっちが飲むのかよく分かったね?」

疑問がそのまま口をつく。

「一緒に飲んでた頃も、アヤさんは最初にミモザを頼んでましたからね」

好みを覚えられてたなんて、びっくりだった。

フードメニューとにらめっこしていたカナが眉を八の字にしながら顔を上げる。

「やっぱり、どれも美味しそうで決めらんない」

そんな彼女の仕草に思わず微笑みが浮かぶ。

そうだ、こうなったら店員さんに聞くのが一番だよね。

「テルくんがオススメする一番のモノって何?」

「そうですね……。こちらのメニューからならレバーパテにバーニャカウダー。
ボードメニューで魚なら今日は良い鯛が入ったそうなので、そのカルパッチョ。肉なら牛頬肉のワイン煮ですね」

わっ、全部美味しそう。

でもレバーは独特の苦味がちょっと苦手なんだよなぁ……。

そんな私の葛藤を見抜いたようにすかさずテル君が言葉を重ねてくる。

「レバーパテは丁寧に下処理してますから、大丈夫だと思いますよ」

「レバーが苦手なのも、覚えてたんだ……」

「えぇ。皆で焼き肉食べた時、泣きそうな顔をして食べてましたからね」

そこまで覚えてたかとちょっとショック。

私達の会話に『ふむふむ』と頷いて、メニューに再度目を落としてたカナが『よしっ』と注文を口にする。


「じゃ、今言ったオススメ全部と、砂肝のやつください。
レバーがまったく食べられない訳じゃないから、ちょっと試してダメならあたしが全部貰うから良いよね?砂肝は、アヤも好きだし」

こういう時、好き嫌いが重ならない友達って、ホントありがたい。

「うん、ありがとう」

無事にフードも注文して、ようやくグラスを手に取る。

「じゃ、今日もお仕事お疲れ様。乾杯」

グラスをあわせて、一口飲み込む。

やっぱ、仕事後の一杯目って格別美味しく感じる気がする。

< 7 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop