三日月ギター



いきなり手を掴まれて、彼が立ち上がると神社の鳥居をくぐろうと歩き始めた。




始まられても困る。
いまから私は学校に行くんだから!





「待て待て待てっ!あなたどなたですか?まず手を離してっ」



まさかの誘拐?!と思った途端に、私を引きずっていた彼がピタリと止まった。

ゆっくりと私に振り返り、静かに見つめる仮称・王子に若干の恐怖を感じた。




「ルカ、…姫? お忘れですか?

私です、ラキです」


真剣な面持ちで頭一個分上から私に問う。







枯葉を携えて、

一陣の春風が通った。

私の髪と彼のきれいな髪がさらわれる。



春風といえど冷たい風が吹き過ぎた後、私はヒートアップした頭が冷えてきた。

彼を見ると、置いて行かれた迷子のような顔をしていた。

胸が切なくなって居た堪れない。








でも私は、ルカじゃない。



「ごめんなさい、人違いです。

私は小春といいます」



すみません、そう言って頭を下げた。







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