キミの知らない物語。【完】



「――うわっ」




瞬間、すごい力があたしを引っ張り、悠也に抱き寄せられた。


体が密着して、心拍数が一気に跳ね上がったのが分かる。



――うわ、バカ!




「――っなにすんの!」




慌てて彼の胸板を押し、その長い腕から逃れれば、

「あ、わりいわりい」

悠也はなんでもないことのように言って、すごく嬉しそうに笑った。




良い顔してる。




――やっぱり菜乃子は自分で伝えるべきだったんだよ、こんな嬉しそうな顔、菜乃子も見たかったに決まってる。


――ほんとに、キミは残酷だ。


あたしがどんなにドキドキしたか、知らないくせに。




「――つか、まじかよ……。うっわ……」




悠也は赤い顔を左手の甲で覆い、言った。


対してあたしはさっきのドキドキは一気に消え去り、今度は逆に、心臓はズキズキとした鈍い痛みにみまわれる。



――ほら。


敵うわけない。


あたしは菜乃子に敵わない。



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