キミの知らない物語。【完】
* * *
『……佐野くん、かっこいいなあ』
体育の時間。
バスケでボールを操る悠也を見ながら、ぼーっと、酔ったような目をして言う菜乃子。
『そお?』
素直じゃないあたしは、携帯電話から目を逸らさずに言う。
本当は、目の端で悠也の姿を追いながら。
本当は、他の誰よりもかっこいいなって得意に思いながら。
『あーあ。菜乃子、陽ちゃんが羨ましいっ』
『えー? なんで?』
『だって小さい頃の佐野くんとか知ってるんでしょ?』
『何言ってんの。幼馴染みなんてウザいだけだよ』
――なんていいながらも、嘘。心の中では誇らしかった。
悠也の幼馴染という、特別めいたポジションにいれることが。
あたしの唯一の自慢だった。
『……菜乃子、生まれ変わったら陽ちゃんになりたいなぁ』
心底羨ましそうに言う菜乃子。
あたしも生まれ変わっても、悠也と幼馴染みの“あたし”になりたかった。
でもね、今は違うよ。
――あたし、生まれ変わったら、悠也の“彼女”の菜乃子になりたい。