キミの知らない物語。【完】



「――無事で、よかった」



絞り出すような、かすれたその声に、あたしは何も言えなくなる。


視界がにじみ、止まったはずの涙がまた溢れ出した。



「――帰るぞ」



再び涙も止まった頃、悠也は言って、あたしの手を引き倉庫を出る。


先ほどよりは弱まったけれど、降り続ける雨はあたしたちを濡らしていった。


雷もまだ、遠くで鳴っている。のに不思議と怖くない。


繋がれた左手が、あったかいから。


図々しい、あたし。この時間を、幸せだ。なんて思ってるなんて。



「……お前さ、連絡くらいしろよ」

「……ごめん、充電切れて……」



言いながら悠也は、何やら携帯をいじっている。



「……あの、悠也。……菜乃子、は……」



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