キミの知らない物語。【完】


どうしたの、と続けるには躊躇われて、半端なままの声が雨にかき消された。



「……2時間くらい前に、お前の母さんから連絡来て、“陽子がまだ帰ってない”って」



心配かけていたことに、胸が痛む。



「で、菜乃子と探してた」

「……え」



――台無しに、した?


……あたしが。あたしのせいだ。


悠也も、なんだかんだ言って菜乃子も、楽しみにしてた悠也の誕生日を。二人の計画を。


あたしが潰した。壊した。


そうならないようにと隠れていたのに、裏目に出た。いろんな人に迷惑かけた。心配させた。



「――っごめ……っ」

「――陽ちゃんっ!」



――瞬間、後ろから聞こえた声に振り向けば、雨でびしょぬれの菜乃子が立っていて、唇を噛んでこっちを睨んでいる。



「……菜乃子……」



綺麗な黒髪は濡れて、細い肩が小刻みに震えていた。


――怒ってる。絶対、怒ってる。



< 31 / 58 >

この作品をシェア

pagetop