キミの知らない物語。【完】
――こんな中で、ずっと二人であたしのこと、探してくれてたんだ。
ごくりと喉を鳴らし、繋がれていた左手を離して、菜乃子と視線を交え合わせた。
いつも温和で優しい菜乃子からは想像もつかないほど、ゆっくりこちらへ歩いてくる彼女は冷たい目をしている。
――怒ってるんだ。
そりゃあ、そうだ。
大切な計画を邪魔されたんだ。
せっかく、今日は特別な日になるはずだったのにね。
何度謝っても足りないよ。
申し訳なくなり、小さく俯く。
「――バカッ、陽ちゃん、バカッ!」
パンッていう短く乾いた音と共に、右頬に鈍い痛みが走った。
――殴られたのだ、と理解するのに、時間はかからない。
菜乃子が声を荒げ、あたしに手をあげた。
だけどそれも仕方がない。
いくら鈍くて優しい菜乃子でも、さすがにこれは怒る。わかるよ。
それで許してもらえるなら、菜乃子と友達でいられるなら、どんな罵りも暴力も受け入れるよ。そうしてもらえた方があたしも幾分か楽になれる。
鈍い痛みが広がる頬を押さえ、菜乃子を見れば、彼女の肩は震えていて、息は上がっていた。
その大きな瞳には、大粒の涙が溜まっている。
それ以上、菜乃子があたしに攻撃してくる気配はない。優しい子なんだよ、あたしと違って。傷つけたくなかったんだよ、あたしと違って繊細な子だから。