キミの知らない物語。【完】



――――――――――――――
――――――――――――



「……佐野くん」



ボーっと、陽ちゃんの歩いて行った道を眺めている佐野くんに声をかける。


陽ちゃんの姿はもう見えないのに。


とっくに帰ってったのに。


……ちょっと妬けちゃうなぁ。



「……あ、わりい、菜乃子」



佐野くんはハッとしたように言って、菜乃子に自分の着ていたパーカーをかけてくれた。



「ごめん、濡れて……、雨なのに」



申し訳なさそうに言う佐野くん。



「ふ、佐野くんのパーカーも濡れてるから、意味無いよー」



笑って言って、びしょぬれのパーカーを指差す。



「……だな。わりい」



佐野くんはもう一度言って、菜乃子の頭をくしゃりと撫でた。


――佐野くんの大きな手が、大好き。



「――さ、帰るか」



菜乃子の手を引き歩き出す佐野くん。


< 38 / 58 >

この作品をシェア

pagetop