キミの知らない物語。【完】
「――いってーっ!」
眉を顰め額を押さえる悠也。
「あはは、笑えない冗談言うからだよ、自業自得!」
――その気も無いくせに。
――キミは、思わせぶりで、残酷。
「――佐野(サノ)くーんっ!」
瞬間、悠也の部屋の扉がスパンと開き、カールのかかった長い黒髪を揺らす、あたしの親友であり悠也の彼女であるまさにその菜乃子が部屋に入ってきた。
「ごめんね! 約束の時間ちょっとすぎちゃったね、今日は……、――て、あれ。陽ちゃん?」
一気にまくしたてた彼女は、あたしの存在に気付くとキョトンとした顔をして、首を傾げる。
その表情のいちいちが、仕草ひとつひとつが、あたしとは真逆で見ていて楽しいし、可愛い。
「……菜乃子。……て、あれ……、もしかして、今日、デート?」
いきなりの菜乃子の登場に、驚いたのはあたしもだけど、こんな分析めいた冷静な反応しかできない。可愛くないのなんて前からだ。
幼馴染と親友は、お互いにぎこちなく顔を見合わせ笑っていて、しまった、と即座に後悔した。