キミの知らない物語。【完】



『――すっげー雨だな』

『そうだね』

『……おう』



どこかぎこちない佐野くんは、菜乃子の淹れてあげた紅茶のカップに口を付けた。


いっつもなら砂糖は入れないはずなのに、佐野くんはドバッと入れて、ごくごくと一気に飲み干す。


もしかすると佐野くんの方が、菜乃子よりよっぽど緊張してるのかもしんない。


……なんか、可愛い。



『……ねー、佐野くん』



クスッと笑って、彼の向かいの椅子に座り佐野くんの顔を下から覗きこむ。



『ん?』

『あのね、――お誕生日おめでとうっ』

『おー、さんきゅ』

『うん』

『……』



笑って言って、ぱちぱちと手を叩いたけれど、すぐに気まずい沈黙。


今までにないような雰囲気。


――佐野くんは、緊張してる。佐野くんも、緊張してる。



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