キミの知らない物語。【完】
『……もう、好きじゃなくなった?』
訊く佐野くんに、菜乃子は小さく首を振る。
『好きだよー』
好きに決まってるじゃん。
――好きじゃなくなったのは。
『……佐野くんの方でしょ』
『何がだよ』
『菜乃子のこと、好きじゃなくなったの。佐野くんの方でしょ』
わかるんだよ。
菜乃子、ズルイから。
前に陽ちゃんは、
“菜乃子はおっとりで、バカで、鈍い”
そう言ったけど、全然そんなことないよ。
そういうふりが出来るほど、菜乃子はずる賢いんだよ。
鈍感なふりができるほど、勘が良いの。それに気付かない陽ちゃんの方が、よっぽど鈍感だ。
言っている意味が分からないのだろう。佐野くんは眉を顰めている。
『……何言ってんだよ』
それから息を吐き出すように笑い、言った。