キミの知らない物語。【完】
『……そういうこと、だよ』
気付いてないの?
鈍くて優しい、キミらしい。
『……佐野くん、菜乃子よりも大切な女の子が、いるんでしょ』
菜乃子はいっつも二番目。佐野くんの一番は菜乃子じゃない。
それは、付き合う前から、付き合ってる今も。ずっと、きっとずっとずっと。
でも別にいいんだ。最初から気付いてたし、それも承知で、好きだったから付き合ってたの。
『……は、誰だよ……』
『さあ?』
首を傾げて言ったとき、タイミング良くか悪くか携帯の着信を告げる音楽が鳴り響いた。
『あ、俺だ』
安堵のため息を漏らし、佐野くんは電話に出る。
『……ん。……――は? え、……陽子が?』
急に焦り出す佐野くん。
“陽子”
聞こえた名前に、嫌な予感を覚えた。
『……はい、わかりました……、……はい』
電話は切れたらしく、佐野くんの携帯は乱暴に二つに折りたたまれる。
『……陽ちゃん、どうかしたの?』
ヘンな胸騒ぎ。