キミの知らない物語。【完】



訊けば、佐野くんは眉を顰めながら、

『……陽子が、帰ってねえって。……もう9時過ぎてんのに……っ』

今にも家を飛び出して行きそうな勢いで言う。



でもそれをしないのは、菜乃子に気を使ってるから。


わかってるよ。


それがキミの、残酷な優しさだってこと。



『……探しに、いかないの?』



――菜乃子、すっごく嫌な女だ。


わかってる。


佐野くん、本当はすっごく探したいんでしょ。


わかってるよ。でもごめん。


菜乃子、そこまで優しくなれない。



『……は、行くわけねぇじゃん。……俺には、菜乃子がいるんだし。今日は特別だし』



強い瞳で言う佐野くん。


……ごめん、佐野くん。


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