キミの知らない物語。【完】
――キミは幼馴染みで。
――菜乃子はあたしの親友で。
――キミと菜乃子は恋人同士で。
――あたしはただの邪魔もので。
「……ごめん菜乃子っ……、――もう! 悠也もさ、今日約束あるならあるって言ってよね!」
ああ最悪。ほんっと最悪。
幼馴染みとはいえ、彼氏の部屋に他の女がいるのは良い気がしないはずだ。それも、自分の親友なんて、文句も言うに言いづらいじゃん。
菜乃子のことを思うと胸の奥がギュッと締め付けられ、あたしは慌てて立ち上がる。
やましい関係ではないけれど、大切な2人に決して悟られてはいけない、あたしの一方的で愚かな感情。
あたしは悠也のことが好きだけど、菜乃子のことも大切な、ずるい女だった。
「えー? なんで? 陽ちゃんも一緒に遊ぼうよ」
慌てるあたしをよそに、菜乃子は柔らかい笑みをこちらに向けて、
「ね? 佐野くん」
悠也に向かって首を傾げる。
「……んー」
悠也は聞いているのか聞いていないのか、携帯ゲーム機に視線を落としたまま、曖昧な返事を返した。