キミの知らない物語。【完】
「……ごめん、佐野くん。――ホントは、菜乃子、他に好きな人が出来た」
言った瞬間、彼の目は大きく見開かれる。
「……は?」
ごめん、佐野くん。
菜乃子、ずるくて性格悪いから。
最後に思いっきり、見栄を張って強がるよ。
今までいっぱい、キミの残酷な優しさに傷つけられてきたからさ。
ちょっとした、仕返しだ。
「……佐野くんよりも、好きな人が出来た」
もう一度言って、肩にかかる自分の長い黒髪を後ろに払う。
――佐野くんの家に行くと。
いっつも陽ちゃんがいた。
幼馴染みだから、って言われても、ヤキモチを妬かないわけがない。
陽ちゃんは菜乃子を見ると、バツが悪そうに笑って帰って行くけれど。
菜乃子に気を使ってくれるけど。
たくさん、たくさん傷ついてた。