キミの知らない物語。【完】
「ん?」
「……来週、佐野くんの誕生日じゃない?」
「……あー、そういえばそうかも」
そうだ、すっかり忘れてた。
「……それでね、誕生日プレゼントの相談なんだけど……」
「うん」
……あたしは何をあげようか。幼馴染みとして。友達として。ふさわしい物。重くない物。
当たり障りのないものを頭の片隅で考える。去年は確か、あいつの欲しがっていた財布をあげた。
バカみたいに喜んでくれて、今も大切に使ってくれている。あたしはそれが嬉しかった。
だから今年は何にしようかと、考えるだけでうきうきしてくる。
「……あの、それで……、陽ちゃん」
菜乃子は言いにくそうにあたしを上目遣いで見て、さっとすぐに顔をそらした。
「ん? ……あ、もしかして、何あげるかもう決まってる?」
何気なく訊けば、菜乃子の頬がボッと真っ赤に染まり、嫌な胸騒ぎを覚える。
「……菜乃子……?」
「……あ、あの……ね」
菜乃子は恥ずかしそうに、あたしの耳元に顔を寄せた。
「……前に、ね。佐野くんに……家、泊まりにおいでって言われたんだ……?」
彼女の小さな声が、やけにクリアに聞こえて、頭がずんと重みを増した気がする。
より一層顔を真っ赤に染める菜乃子に、ああ。そういうこと。予想通りといってもいい言葉に、不思議と冷静でいられた。
「……それって、……つまりそういうこと?」
あたしが訊けば、菜乃子は小さく頷く。
「……で、あの……、佐野くんの誕生日、菜乃子の家、親が親戚の結婚式でいなくてね?」
準備は万端ってわけか。
机に肘をつき、ふーっと溜息を吐く。
「……悠也、喜ぶんじゃない?」
「ほ、ほんと? 重くない?」
言う菜乃子。素直に顔を赤らめて、思ったことを口に出来る。
少し羨ましい。