キミの知らない物語。【完】




「ん?」


「……来週、佐野くんの誕生日じゃない?」


「……あー、そういえばそうかも」




そうだ、すっかり忘れてた。




「……それでね、誕生日プレゼントの相談なんだけど……」


「うん」




……あたしは何をあげようか。幼馴染みとして。友達として。ふさわしい物。重くない物。


当たり障りのないものを頭の片隅で考える。去年は確か、あいつの欲しがっていた財布をあげた。


バカみたいに喜んでくれて、今も大切に使ってくれている。あたしはそれが嬉しかった。


だから今年は何にしようかと、考えるだけでうきうきしてくる。




「……あの、それで……、陽ちゃん」




菜乃子は言いにくそうにあたしを上目遣いで見て、さっとすぐに顔をそらした。




「ん? ……あ、もしかして、何あげるかもう決まってる?」




何気なく訊けば、菜乃子の頬がボッと真っ赤に染まり、嫌な胸騒ぎを覚える。




「……菜乃子……?」


「……あ、あの……ね」




菜乃子は恥ずかしそうに、あたしの耳元に顔を寄せた。




「……前に、ね。佐野くんに……家、泊まりにおいでって言われたんだ……?」




彼女の小さな声が、やけにクリアに聞こえて、頭がずんと重みを増した気がする。


より一層顔を真っ赤に染める菜乃子に、ああ。そういうこと。予想通りといってもいい言葉に、不思議と冷静でいられた。




「……それって、……つまりそういうこと?」




あたしが訊けば、菜乃子は小さく頷く。




「……で、あの……、佐野くんの誕生日、菜乃子の家、親が親戚の結婚式でいなくてね?」




準備は万端ってわけか。


机に肘をつき、ふーっと溜息を吐く。




「……悠也、喜ぶんじゃない?」


「ほ、ほんと? 重くない?」




言う菜乃子。素直に顔を赤らめて、思ったことを口に出来る。


少し羨ましい。



< 7 / 58 >

この作品をシェア

pagetop