キミの知らない物語。【完】
言えば、彼女は嬉しそうにはにかんだ。
「……あの、それで、ね?」
「なに? まだなんかあんの?」
わざとらしく溜息をもらすあたしに、菜乃子は苦笑する。
正直これ以上はもう聞きたくなかった。本当はもう今すぐにでも泣きそうだった。
「このこと、……佐野くんに伝えてくれないかな?」
「はあ!?」
「だ、だって! 自分で言うなんて恥ずかし過ぎるっ!」
眉をハの字に曲げる半泣きの菜乃子に、思わず承諾しそうになってしまうけど、だめ、だめだめ、無理、それはできない。
「ちょっと、あ、あたしだって伝言するにも恥ずかしいって! 自分で言ってよ」
「だめ! ねえお願い! 陽ちゃんっ! 陽ちゃんだけが頼りなのー!」
「いや……、ほんと無理……」
「一生のお願い!」
――ああ、駄目だ。菜乃子が可愛すぎる。
親友であり、妹みたいな存在の彼女からのお願いに、あたしはめっぽう弱い。
「……しょうがないな」
じっとこちらを見つめて懇願する菜乃子に負け、渋々言うあたしに対し、彼女はパッと顔を綻ばせた。
……自分馬鹿だなっていう自覚はある。
「ほんとに!? いいの? ありがとう陽ちゃん! 大好き!」
「……その代わり、今度なんか奢ってよね?」
「なんでも奢るよー!」
きゃーっとはしゃぐ可愛い親友に、どうしようかとこっそり眉を顰めた。