深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
「そういやアンタ、経理のやつなんだよな?名前は?」
相変わらず彼の腕の中に収まっていた私に、彼はそう訊ねてきた。
「…鶴岡環です。あなたはどうしてここに?」
「あぁ、………しつこい女に追い回されててさ、ここの扉が開いてるなんて珍しいだろう?だからつい、な」
そう言うと、彼はまたまじまじと私を見つめだす。その真っ直ぐすぎる視線に耐えられなくなった私が彼の腕の中から離れたらば、途端に彼はきょとんとした顔になる。
「―――ま、いいか。ありがとな環!」
彼はそう言って笑うと、私の髪をその節くれ立った指で梳く。
そうして私から離れ、資料室をあとにするのだった。