深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
「ここ…」
上は芦谷さんに借りた大きめのパーカーに下はスーツを着た私を連れて芦谷さんが向かった先は、都内でも一等地に立つショップだった。
当然こんな店で買い物をしたことのなかった私は怖じ気づいてショップの入口に立ち尽くす。
(わ、私なんかじゃこんなとこの服着れないよ!)
そう思ってちらりと隣にいる芦谷さんを見上げると、当の本人は腰を屈めて私と目線を合わせて柔らかく笑う。
「俺が選ぶから心配するなよ。…大丈夫、俺がいるんだから怖くないだろ?」
「…そう、ですね」
私への返事代わりに私の手を取り、彼は笑う。