深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
「ひ、ぁっ!」
びっくりして思わず口をついて出た変な声。
私は両手で自分の口を塞ぎ、芦谷さんをにらんだ。
すると芦谷さんはクツクツと笑う。
「やらしい声出してんなよ、ほら」
「ひ、ひとりで履けるのに」
「―――いいから。…させてくれよ、俺がしたいんだ」
柔らかく、優しく笑った芦谷さんには逆らえない。…その笑顔が曇るところなんて私は見たくない。
(ずるい、なぁ…)
そう思った私は、そっとつま先を彼に向けた。
私の足にぴったりなサイズの黒のパンプス。
全身を芦谷さんにコーディネートされた私は、始めに試着した服をそのまま着てショップをあとにした。