深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
慣れないパンプスに苦労しながら芦谷さんの後を追うと、再び車に向かっているようだった。
促されるがまま助手席に乗り込むと車は発進し、ぐんぐん都会から郊外に抜けていく。
行き先を教えられていない私がちらりと運転中の芦谷さんに視線をやると、おもむろに口が開いた。
「着いてからのお楽しみだ」
それしか言わない彼に首を傾げながらもおとなしく車に乗っていると、林が途切れて目の前に煌めく水面が広がり出す。
「―――海!」
「いいだろ?ここらは穴場だから誰も来ねぇんだ」
思わず窓ガラスに寄った私を見て芦谷さんは楽しそうに笑う。
車を止め外に出ると、私たちはどちらともなく手を繋いで海辺へ向かっていった。