深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
彼がいなくなった資料室はなんだかやけに広く感じて、私はその場で数回深呼吸を繰り返した。
「…軽い男」
彼の印象はそれだけ。
まぁそりゃあんなに女受けしそうな顔してりゃ、望む望まないに関わらずそうなってくのかもしれないけど。
(どっちにしろ、私には関係ないわ)
私はそう考え直すことにして、改めて頼まれた伝票を探し始めた。
―――手のしびれは収まらない。
聞こえないはずの音が耳の奥から離れてくれないのだ。
ジャラ、ジャラと。
私を縛り付ける鎖の音。
消えようとしない幻影に、私はただ気づいていないふりをするだけだった。