深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
「失礼ですけど、…どちら様でしょうか?」
「あっ、俺………営業部の半澤と言います。突然ですけど、鶴岡さんって彼氏…いますか?」
(彼氏…)
“彼氏”と聞いて、真っ先に浮かんだのは芦谷さん。
改めてそう考えると照れくさくなって、私は小さく頷くことしかできなかった。
すると半澤さんは短い髪をがしがしとかいて苦笑いを浮かべる。
しかしすぐに私との距離を詰め始め、じりじりと私を壁に追いつめた。
「そっかぁ〜…。ね、よかったら一度だけデートしませんか?」
「え!?…あの、困ります」
私は半澤さんが逃げるようにあとずさっていたけど、壁に背中がついてしまい逃げ道を失ってしまう。
助けを求めようにも廊下の端に追いつめられていた。