深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
先に会社から帰っていた私は夕飯の仕上げをしながら直人さんの話に耳を傾ける。
当の直人さんはネクタイを緩めながら私に近づき、後ろから私の身体に腕を伸ばすとそっと抱き寄せてきた。
「親父の誕生日がもうすぐなんだけど、毎年パーティーがあってさ。今年こそはパートナー同伴で出るように、って昨日母さんからメール入ってたんだよ」
そう言いながらなにやら言いづらそうにもごもごして私の顔色をうかがう直人さん。
「…私、ですか?」
「あぁ。…環以外連れて行くつもりはねぇよ」
(…耳元でそう囁かれたら嫌だなんて言えない気がする)
「私で、いいなら…」