深海の眠り姫 -no sleeping beauty-





私たちが会場に入った瞬間、すでに談笑を楽しんでいた人たちもそうでない人たちも一斉にこちらに視線を向けた。
こんなに注目を浴びることなんて初めてだった私は思いっきり肩をびくつかせてしまい、それがすぐ隣の直人さんにも伝わってしまい。



「環、露骨すぎ。今日の主役の跡取り息子が女連れなんだ、誰だって見ちまうよ」


そう言いながら口元を抑え、笑い声を必死に抑えている。



「…笑うんだったら笑ってください!」


「違う違う。リスみたいでかわいいなって思ったらにやけ顔が止まんねぇの」


(…悔しい!)


そう言われたらもうなにも言い返せない。
笑う直人さんとそれをにらむ私を会場中が微笑ましく眺めていただなんて、私には知る由もなかったのだった。





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