深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
彼はそう言いながら、そっと私に腕を伸ばす。
そのまま親指の腹で隈のできた私の下まぶた辺りを丹念になぞると、しゃがみ込んでいすに座る私と顔の高さを同じにしながら顔をのぞき込んできた。
「ちゃんと寝てんのかぁ?こんなしっかり隈作って」
その無責任な言葉に苛ついた私は、彼の手を払いのけた。
「あなたのせいですから」
「……………あ?俺!?…身覚えねぇよ」
もう明らかに狼狽え始めた彼を尻目に私はまた机に倒れ込むと、これだけはと口を開いた。
「名前も知らない人に心配してもらう義理もないので、ほっといてください」