深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
止めて、離して。
そう言いたいのに、身体がだるくてどこも言うことを聞いてくれそうにない。
悠々と私を担ぐ身体。
腰の辺りに添えられた掌はスーツ越しでも暖かいのがわかってしまう。
こんな風に触れられたのは初めてで、でも不快ではなくて。
(…流され、る………)
「は、なしてください…!」
エレベーターの中で彼の背中を叩いても全く返事が返ってこない。
それどころか地下駐車場に向かっているらしく、空いている方の手で車の鍵をチャリチャリいじっている始末。
(もう、やだぁ…)
抵抗するにも疲れてしまった私は、そこで記憶を途絶えさせてしまう。