深海の眠り姫 -no sleeping beauty-





「………この時期はいつも、こう、だ、から…、」


うわごとのようにそうつぶやくと、芦谷さんは眉間にしわを寄せて私の頭を撫でだす。



「なんか、あったのか」


その問いに私は虚ろな視線を返すのみ。
こんなの、会って間もない人に話せるような内容じゃない、と常に思っているからだ。



「言え、ない。…いい、話じゃ、ないから―――」



途切れ途切れに言葉を紡ぎながらも、いよいよ眠気が限界に近づいてきたらしい。


頭の中がだんだん白に侵されていく。
もう何も、考えられなく、て。


―――ただ静かに、私は眠っていくのだった。





< 29 / 159 >

この作品をシェア

pagetop