深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
「………この時期はいつも、こう、だ、から…、」
うわごとのようにそうつぶやくと、芦谷さんは眉間にしわを寄せて私の頭を撫でだす。
「なんか、あったのか」
その問いに私は虚ろな視線を返すのみ。
こんなの、会って間もない人に話せるような内容じゃない、と常に思っているからだ。
「言え、ない。…いい、話じゃ、ないから―――」
途切れ途切れに言葉を紡ぎながらも、いよいよ眠気が限界に近づいてきたらしい。
頭の中がだんだん白に侵されていく。
もう何も、考えられなく、て。
―――ただ静かに、私は眠っていくのだった。